エッセイ

Essay-2
長屋風マンションを訪問する

世田谷まちづくりセンター主催の「長屋風マンションを訪ねてみよう」という企画に参加してきました。
プライバシーを重視しすぎた結果、隣人の顔すら判らないというマンションが多い中、集まって住むことに積極的な意義を見い出し、庭づくり、子育て、食事会など、世代をこえた住人相互のふれあいと支えあいのある、いわゆる「現代の長屋風マンション」の代表的事例を見学し、より豊かで安心できる集合住宅のあり方を考えようという企画です。その一つ、東京世田谷にある「コ-ハウス喜多見」という分譲型コーポラティブハウスに行ってきました。

事の始まりは「世田谷で土地建築込み4500万円80・の家をつくりたい」という、テニス仲間、仲良し三人組の奥さん達の「思い」です。その奥さん達が中心となり、御主人達を巻き込んで、「楽しい住まいの会」を結成し、仲間を増やし勉強を続け、そしてついに敷地を見つけ、都市整備公団(当時)のグループ分譲方式を利用して、事の発端から8年、グループ結成から4年を経た'98年7月にRC造4階建、延床面積1650・、14戸(40~120・)の家族の集合住宅を完成させました。

設計者選びにも力が入っています。18の設計グループにアンケートを送り、そこから3チームを選び、プロポーザルをしてもらい、全員で討議投票の結果、芸大の片山和俊さんのチームに決めたという力の入れようです。1階のバーベキューコーナーや屋上庭園など、共用部分の比率は30%(通常のマンションは15%)とゆったりつくられています。そのため、「勿体ないのでは」と住民と設計者の間で厳しいつばぜり合いがあったそうです。でも完成してみれば、「こうしてもらって本当によかった」とおっしゃるのは、いろいろ説明してくれた住人のOさんです。その共有空間は、花火大会やもちつき、バーべキューや飲み会など頻繁に使われているそうです。(勿論自由参加) 感動すら憶えたのは、バーベキューコーナーに隣接した、1階の住戸にお住まいの仲良し3人組のお一人Aさんのお宅です。

Aさんのお宅は、バーベキュー大会等をした時、台所を開放できるよう、その共用部に面して勝手口を設け、台所に自由に出入りできるようにしています。そして驚いたのは、トイレのありようです。ビールを飲んでトイレが近くなった人のために、玄関から靴を脱がずに直接トイレにいけるように考えてあるのです。勿論、日々の暮らしでは部屋側から使うので、トイレには玄関側、部屋側と二つの扉があるのです。

ここまで考えるとは、いやー全く脱帽です。ちなみに、それぞれの個性的な各住戸の設計は、片山さんのもと、4チームで協同設計したそうです。

住民の世代構成は20代後半~60代までと多岐に渡っています。若い世代にあたる4階にお住まいのKさんは、TVの仕事で「楽しい住まいの会」を取材し、それが縁でこの住民になった方です。3歳になるお子さんのショーちゃんはこのマンションのアイドルです。Kさん曰く「コーポの子」になっているショーちゃんは皆に可愛がられ、どこのお宅へもフリーパスで出入りできおやつを御馳走になって帰ってくるそうです。

勿論、ここまで来るのには、いろいろと面倒で大変なことの連続だった筈です。どの場所に住むかという、いわゆる「陣地決め」では熾烈な討論が何度もあったと思います。住民サイドだけでなく建築家サイドとしてもかなりシンドイ仕事だったと想像できます。

それでも、「集まって住む」という楽しさを満喫している住民の方々のお話と、各住戸のそれぞれに個性的で居心地のよさそうな住まい方のありようを見ると、これからの集合住宅の可能性の一端が垣間見えたような気がしました。 近い将来、こういった集合住宅をつくってみたい、そう思っています。

<OMフォーラムVol.12掲載文に加筆>