エッセイ

Essay-4
住み続けられる家
 

~住宅の寿命~

「141年、103年、86年、79年、30年」
これが何の数字だかお判りになりますか?

実はこの数字、各国の住宅平均建て替え年数なのです。141年のイギリスを筆頭にアメリカ、フランス、ドイツと続き、30年とは、悲しいかな日本の数字なのです。

人間の平均寿命では世界一を誇る日本なのに、住宅の平均寿命が30年とは何とも情けない思いがします。

それにしても、使い捨て、消費大国のイメージの強いアメリカが103年とは意外な気がしますが、それには中古住宅市場の充実というお国事情があるらしいのです。

日本人が、ライフステージや家族構成の変化に合わせてマンションを買い換えていくように、アメリカでは一戸建ての住宅をそれも中古住宅を買い換えていくということです。
日本ほど土地の価値に重きを置かないお国柄、必然的に住宅の質が問題になり、買った値段より高く売れるように、手を入れ、質を高める努力を住み手自らが行う結果、良質な住宅のストックが増え「103年」という数字に表れてきた、ということらしいのです。

~何故超寿命?~

でも、何故住宅の寿命が長い方がいいのか?30年くらいで建て替えた方が経済も活性化していいような気もします。
でもでも、なのです。単純にいって勿体ない。へたをすると、一生のうちに2回家を建て替える人もいます。お金持ちならともかく、とりあえず20年くらい持てばいいやと考えて、安普請の家を建て、構造的にガタがきて使い勝手も悪くなったといって、もう一度家を建て替えてしまう。
ローンを払い終わったと思ったら、また次のローンが待っているとは個人的な経済状況で言えばなんと勿体ないことでしょうか。

それに、住宅の建て替えで生じた廃材処理という環境的な影響もあります。環境的な負荷という意味では木材の生産と消費のバランスという問題もあります。住宅の寿命が30年では、木材のサイクルに乗ってこないのです。

植林して住宅で使える木に成長するまで50年、60年という年月が必要で、それより早く建て替えていってしまうということは、いくら再生可能な材料といいながら、当然ながら需要が生産を上回りそのサイクルに乗ってこないということになってしまうのです。

~住み続けるためには~

それでは、木材のサイクルに乗ってくる50年60年という期間を住み続けていくためにはどんなことが事が必要なのでしょうか?
まず、耐久性ある家をつくるということが挙げられるでしょう。
自然災害があっても住んでいる人をしっかり守るシェルターの役目を果たす家。基礎や土台、柱や梁や屋根といった構造がしっかりした家。シロアリや腐朽菌の害に合わないような建築的な対処や、構造材に影響を与える内部結露をおこさせない建築的な工夫といったこと等も勿論それに含まれるでしょう。

それから、耐用性の高い家をつくること。
実は、家を建て替える大きな理由として、物理的な耐久性よりも使い勝手の悪さや設備の陳腐化といった耐用性のなさによることが多いのです。ですから、本物の材料を使って流行に流されない飽きのこない家をつくること。そして、家族の変化に応じて増改築しやすいこと。幸い、木造の在来工法はそうしたことに適した工法と言っていいかと思います。

そしてもう一つは、実はこれがとっても大切なことだと思うのですが、「愛着のある家をつくる」ということ。

暮らしの舞台である家は、日々の暮らしや家族の思い出がたくさん詰まった思い出の宝庫なのではないかなと思います。家をつくっていく過程で、そして暮らしていく中でいろいろな思い出が詰まっていく。そんな愛着のある家だからこそ、メンテナンスしながら住み続けようという思いが湧いてくるのではないかと思うのです。

でも、そんな情緒的なことばかりに浸っていられないかもしれません。現実に戻ってみると、長く住み続けていくためには、もちろんメンテナンスが必要です。そして勿論お金もかかってきます。不意の出費が必要なこともあるでしょう。

そんな不意の出費に驚かないように、マンションの住民が修繕費を積立ているように、個人住宅でも修繕費を月々積み立てていったらどうでしょうか。そうすれば、不意の出費に驚かずに、安心して住み続けていくことが出来ると思うのですが。

~良質な住宅をストックする~

耐久性や耐用性のある、そして愛着の持てる居心地のよい家をつくり、メンテナンスをしながら家族の暮らしに応じて増改築して住み続けていく。ドイツの79年を目標にメンテナンスしながら住み続けていってもらえたら、これは設計者冥利に尽きるといても過言ではありません。でもこれは「建築家のエゴ」なのでしょうか?そうではないと思ってはいるのですが。