エッセイ

Essay-9
早く家に帰りたい

~出会い~

Kさんご夫妻は家づくりの会の連続講座やミニ講座等に出席され、私に白羽の矢を立てていただき設計契約をしたのが2003年3月。
どうして私を選んでくれたんですか?
「落合さんの設計する家の感じが好きだったということが勿論一番ですが、夫婦で台所に入ることが多いので、料理のことが判ってくれる建築家がいいと思っていて、たまたま落合さんが餃子作りのことを何かで書いているのを読んで、落合さんにしようと思ったんです。」餃子が取り持つ縁。ちなみにわたくし、オムライスも得意料理の一つです。

この住宅はご夫婦とお子さん二人、そして奥様のお父さんの5人家族の住宅です。
広大な芝畑に面した敷地で、その眺望をいかに家の中に取り入れようかというのが大きなテーマの一つでした。
「初めは増改築で考えていましたが地盤も心配だし、隣の敷地を買い足したこともあり新築に方針を変更しました。
予算的にも新築にしてもなんとかいけそうだったし」
「たくさん本があるので、本棚をいっぱい造ってほしいとお願いしました。それから家族が一緒にいて、それぞれが別々の過ごし方が出来る空間にしてほしいというお願いもしましたね」

~道路~

敷地周辺は、新築の家も建つ普通の住宅地なのですが、じつはこの一帯は法的な道路がない地域なのです。
建築基準法上は敷地は道路に2M以上接していなければいけないのですが、その道路がない!地域なのです。

役所もこのあたりの建築については黙認していて、建坪率、容積率、高さ制限等建築基準法にのっとって家を造るのであれば、建築確認申請を出さなくても何も言わないという地域でありました。(出しても受け付けてもらえないわけですが)
勿論建て主のKさんもそのことはご存じで、合法的に造ってもらえれば特に確認申請はいらないとおっしゃっていました。

~奮闘~

「当初は自己資金だけで行うつもりでしたが、やはり融資を受けないと出来そうもないので会社の融資を申し込んだところ、融資には確認申請が必要といわれて愕然としました」
自己資金では関係ありませんが、融資を受けるとなると当然確認申請が必要です。
というわけで、何とか確認申請が出せないか区役所に相談したところ、敷地が面している道路上の部分を「協定通路」と認めることは可能。ただしそのためには関係権利者全員の同意書(4mない部分はセットバック)しかも印鑑証明付き!を出せば可能ですと、
しごく簡単なことのようにおっしゃるのです。そりゃーないでしょう!

Kさんご夫妻は努力されましたが、印鑑証明付きの同意書は勿論もらえるわけもなく、自己資金の範囲内で行うかどうかも含めてしばらく中断ということになりました。

~光明~

「待てば海路の日和あり」とはよく言ったもので、中断から約1年後の2004年秋。
Kさんから「芝畑の持ち主が宅地申請をして開発道路を造る計画が出てきました」との連絡をいただきました。
この道路が出来ればKさんの敷地は救われます。でもその裏の数件の方々は依然として前面道路がない敷地ではありますが・・・
そして翌年の2005年夏、開発道路が完成して設計打ち合わせが再開しました。
プランは、居間を中心にしてキッチン・ダイニング、吹き抜けを通して書斎コーナーが一体となった案を元に順調に進みましたが、ただ玄関の位置については変更の要望が・・・
「道路側に玄関をつくるのが普通でしょうが、裏の方々に背を向けるということも出来ず、少し不便ではありますがあえて元の家と同じように裏の通路側に玄関の位置を変えてもらいました。落合さんは最後まで合点がいかない様子でしたね(笑)」

~早く家に帰りたい~

上棟式の日が、裏の家のお通夜と重なるハプニングがあり、鳶の親方が大声を出せず小声になって、音程が不安定な珍しい「木遣り」を聞くことになりましたが、工事は特に大きな問題もなく完成、引っ越しとあいなりました。
「子供たちもみな居間に集まってきます。居間にいると家族の気配が感じられとても居心地がよいです。出かけていても早く家に帰りたい!と思ってしまいます。」
完成までにはいろいろなことがあり時間もかかりましたが、楽しく暮らされているようで安心しました。
「待てば海路の日和あり」とは昔の人はいいこと言いますねー。

P.S.

この文章を事前に読んだ建て主のKさんからこんなお便りをいただきました。

「落合さんにお願いした理由の部分について、餃子が取り持つ縁とありますが、餃子にそれほどのパワーがあるわけではありません。」
「落合さんの家は、のんき」(「『のんき』を絶対に書いて」と妻が言っています)
「子供もお持ちなので子供との生活がイメージしやすそう」
「料理もするみたいだし」
「話をするのが楽そう」
などと思っていました。

そして、落合さんの家をいくつか見せていただき、私たちが漠然と欲している家を形にしていただけるだろうと、総合的に判断して、お願いすることに決めました。」
ありがとうございます、Kさん。
「のんきな家」・・・キャッチフレーズとしていけるかな?

<家づくりの会「家づくりニュース 2007年」掲載>